昨日もお近くのGPクラフトさんにKH400-ICBM(R)を納品させていただきました。
H1/H2のICBM(R)は大好評をいただいています。KH400などのミドルトリプルについても同じように評価していただけるようになってきました。
もうみなさんご存知のようにトリプルのエンジンはどれもポートが大きく、ピストン リングやピストンスカートがポート内に飛び込んでしまって異常摩耗を起こします。それに対してポートに柱を立てたICBM(R)はその欠点を完璧にカバーすることができるというのが高評価の理由です。
静かに・スムーズに回るようになったICBM(R)採用のエンジンはその状態がほぼ永遠に続きます。物凄い硬度のメッキのおかげです。慣らし運転が終わる頃には音が出始めてしまう、などというトリプルの伝説とは無縁になるんです。
トリプルのエンジンはジャンジャン・キンキンと音が出るのが当たり前でそういうものだと思って乗ってらっしゃるオーナーさんも多いとか。
中にはICBM(R)採用のエンジン音を聞いて、これでは寂しい、「カワサキらしくない」などとおっしゃる方もいるそうです。
でも、この音がどうして発生しているのかをちょっと考えていただきたいんです。
例えばリングが柱のないポートにはみ出してしまいます。そして、それが綺麗に押し戻されればジャンジャンなどという音はするはずがないのですが、リングが内径側にうまく押し戻されずにポートの淵に当たって、叩かれながら回っているんですよ。

異常摩耗が見られる350ssシリンダーのINTAKEポート。
当然その時にリングも痛みますし、ポートの側も削り取られていきます。ちょっと走ったトリプルシリンダーのポートの上下にはすぐにそれとわかる傷がつき、摩耗が始まっていきます。こんなひどい回転抵抗がエンジンの中で起こっていいはずがないではないですか!
翻ってiB得意のプラトーホーニングのことを考えてみたいと思います。
今ではすっかりおなじみになったプラトーホーニングはその名の通り、リングが摺動する面(高原部分)では通常のホーニングの1/10ほどの滑らかさに仕上げられています。
一方でその分のオイル保持を可能にするために谷の部分は通常よりも深く谷がつけられています。
このようにするためには通常1行程で終わるホーニングを谷を深くつける1行程目と高原部分を滑らかにする2行程目に分けて加工する必要があり2倍以上の工数がかかります。しかもその両方がうまい具合に粗さが出た時に内径の寸法がちょうど狙った寸法になるようにするのには、超絶テクニックが必要なのがお分かりいただけるかと思います。

GPクラフト様向けKH400-ICBM(R)納品書添付のプラトー成績書

通常のホーニングではこのようにピストンが摺動する面(上側)も尖った形にホーニングされます。

プラトーホーニングでは谷はしっかりと深くピストンが摺動する面は通常の1/10ほどの滑らかさに仕上げます。
そうまでしてどうしてプラトーホーニングを実施するのか。それは「滑らかな・スムーズなエンジンを作るため」その一言に尽きます。
抵抗が少なく、スムーズに回るエンジン。それはエンジンの理想でしょう。パワーが出ることも大事ですが、せっかく発生したパワーがエンジンの外部に伝わる前にエンジン内で無駄な抵抗やうるさいノイズと化して消えていったのでは何の意味があるのかわかりません。
2ストエンジンにせっかく巨大なポートを与えてもそこがパワーを食ってしまうのだったら、燃料が無駄に消費されるだけのうるさいエンジンにしかなりません。
おまけに壊れやすい!リングノイズやピストンスラップノイズがでている状態は焼き付きや異常摩耗の原因にしかなりません。
70年代以前から80年代後半くらいまでの2ストエンジンはトリプルばかりでなくどれもこのような問題を抱えています。大パワーを狙った大きなポートがなんとクランク軸に直角な方向に大きな口を開けています。本来そこはピストンの首振りを抑え、ピストンをスムーズに往復運動させるためのシリンダー内壁がなくてはならない場所なのに。
ですから、その位置、すなわちシリンダーの前後方向の真正面・IN/EXポートのド真ん中に柱を立てるというICBM(R)の手法は極めて真っ当な2ストロークエンジンの根本原理に適った改善手法なんです。このように有効なやり方は他には2つとありえない手法だと言っていいでしょう。

同じくGPクラフト様向けKH400-ICBM(R)の内径ポート。EXポートには柱が建てられピストンをしっかりと受け止めます。
柱には0.08mmほどの深さに逃し加工がマシニングセンターで入れられ、手仕上げで滑らかに仕上げられています。
ポート面取りやプラトーホーニングの滑らかさも感じ取っていただけるのではないでしょうか。
このように考えてくると、リングノイズやピストンスラップノイズをエンジンの個性と捉えてそれを好ましいもののように評価することにはそうとうな違和感を感じざるを得ないのもご理解いただけるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
やはりエンジンの理想は「スムーズなエンジン」だと思います。精度良く機械工学の理想に適う形に加工され丁寧に組み立てられて、
「静かに・スムーズに回る(長持ちする)エンジン」
iBは、そこにこそエンジンを愛するものにとっての理想の姿があるのだと信じています。
[REINCARNAITION]
旧いオートバイエンジンの再生を業とするiBの理想は大パワーを狙ったチューニングでも奇を衒ったカスタムでもなく、
オリジナルエンジンの良さをそのまま残して当時解決できなかった旧いエンジンの欠点だけを取り除く「モダナイズ」にあります。