いま、一所懸命にアルミスリーブにトライしたり、メッキのことを勉強したり、いろいろやっているわけなんですけど、いったい、これはなにをしようとしているのか、自分でもその情熱の目的地がよくわからないままに、やみくもに「これはオモシロイ!」と思ったことに挑んできました。
プラトーホーニングやNEさんのWPC&MOS2をご紹介したり、コンロッドを削ってみたり、チタンのことをいろいろ調べたり、2スト・4ストのスリーブを削り出したり、ベリリウムカッパーを採用したり、思えば、ここ数年でずいぶんいろいろと手を出したものです。
いままで、その種々雑多な取り組みをうまく言い表すことができずにいました。お客様に対しても、メディアに対しても、従業員に対しても、自分に対しても。ところが、この週末、アルミスリーブの開発の方向性を思いあぐねている間に、ふと思いついた言葉があります。それがタイトルに書いた「モダナイズ」です。
この言葉を思いついたら、なんだかいままでばらばらにトライしたきたいろんなことが、一筋の糸に縫われたように、すーっと近づいてきてきれいに整列してくれたんです、僕の頭の中で。
IBがやろうとしていることはけしてチューニングではない。改造ーモディファイでもカスタムでもないし、単なるレストアでもリペアでもない。
「モダナイズなんだ!」と思ったんです。
性能をあげるためにはいろんな手法があります。当社だって、例えばレースに乗り出していって、ある機種に絞って馬力を上げる方法を真剣にトライすれば、そういうことだってできるようになるかもしれません。でも、どうも僕にはそれが自分のやりたいことだとは思えなかったんです。それはどちらかと言えば、お客様にやっていただきたいこと。自分たちはそのお手伝いをさせていたきたいとは思います。でも、僕らはチューナーやコンストラクターになりたいのではないことはわりと早くからはっきり認識していました。(ボーリング屋さんの中にもそちらの方面で成果をだしていらっしゃることろもありますけれども)
では、僕らは単なる修理屋でいいのか。あるいはもう少しマニアックにレストアをして、古いエンジンを昔のままに再生することに意義を見いだすのか。うーん、これは結構惜しい。かなりこれに近いことはやりたいんだけど、なにかちょっとだけ違うんです。
せっかくばらばらにしたエンジンに、昔のままの技術で、「当時モノ」のパーツを組んで昔に戻すだけ。それだけではなにか物足りない。だって、昔の技術や昔の設計や昔の素材には、やっぱりその当時の技術の限界があって、あまりよくないのがわかっている部分があるわけですから。それに、僕らには新しい技術があるじゃないか。それなのに、どうせ古いエンジンだからって、昔のままの技術で加工してりゃそれでいいっていうのは手抜きじゃないのか?
そう思って最初に「プラトーホーニング」をご紹介してみたら、これをみなさんが喜んで使ってくださる。そこにWPC&MOS2などもいいに決まってるからセットでご紹介したら、これもみなさん当然のように利用していただける。
「そうか、これだ!」そう思って今はさらにアルミスリーブや新しいメッキなどに挑戦しているわけです。
以前にも書きましたが僕らはパワーをあげるために、耐久性を犠牲にしたくはないんです。ですから、無理な軽量化や、過度なチューニングにつながる仕事はあまりやっていて楽しくありません。量産メーカーが作ったエンジンはあらゆる点でバランスがとれていて、ハンパな知識で弄り回したところで、トータルでみてあまりいい結果が得られるとは思えません。(ま、こんなことを考えること自体も実は加工屋に過ぎない我々の守備範囲外のことではあるんですが)
でも、そのエンジンが量産された時点で存在しなかった優れた技術を投入するのなら、トータルバランスを崩さずに、よりよいエンジンを作る事ができでも不思議ではありません。それが「モダナイズ」(最新化・近代化)の意味です。たとえばスリーブの素材。鋳鉄ひとつとっても30年前に比べれば耐摩耗製の高いよい素材がラクに入手できます。もちろん、今開発中の特殊アルミ素材だって昔はありませんでした。プラトーホーニングもそれほど新しい技術ではありませんけれども、コストの面などもあり量産バイクで採用されたのはだいぶ後になってからだと思います。(四輪車では早かったです。)それにWPC&MOS2やメッキ、DLCコーティングなどの表面処理技術。これも近年大きく進歩した分野です。
このような素材・加工技術・表面処理などの3つの分野の技術進歩の成果を古いエンジンにも投入して、現代のエンジンと同じように、低フリクションでロングライフな優れたエンジンをつくること。これなら、われわれがなにもレースに出て行ってありとあらゆる機種のエンジンのチューニングテクニックを手に入れなくても(そんなことできるはずがありませんし)、どんなエンジンに対しても一様に貢献することができるのではないか!ということに思い至ったのです。特別にボア・ストロークアップやビッグバルブ化やらをせず当時のままのオリジナルスペックで加工しても、投入する技術レベルが高ければ、トータルな性能向上はあり得るのではないでしょうか。
(ひとつ付け加えるとすれば、量産エンジンでは最重視されるコストの点で、ワンオフ的な取り組みでは多少緩く考えてやや贅沢な技術の投入も許されるだろう、そのことによってさらに量産時よりもいい回り方のエンジンを作る事ができるだろう、という点も見逃せません。)
もちろん、そんな私どもの技術を専門的な知識を持ったお客様に有効に利用していただいて、レースやパワーアップ(チューンアップやモディファイ・カスタム)などに使っていただくのは大歓迎です。ただ、私たち自身はその専門的な知識の部分を目指すのではなく、あくまでも「モダナイズ」の技術の方を提供していきたいと考えているんです。
今後あらゆる仕事の取り組みの中で、このことを前面に出していきたい、と考えています。
一例に過ぎませんが、当社の古くからの得意技術に組み立て式「クランクの分解組立芯出し」があって、最近はこれをできる内燃機屋さんが減ってきていることもあって、多く利用していただいています。
この最も古い技術を使う際においても、その機会にバラしたクランクピンやコンロッドにWPC&MOS2処理をおすすめしてみようかと思い立ちました。WPCするにもバラさないとできないわけですからね。古い技術と新しい技術を組み合わせることでクランクを「モダナイズ」することができます。
また、クランクまで取り出されたということはクランクケースを割ってあるということですから、そのついでにミッションにも同加工を施してみてはいかがでしょうか。せっかくエンジンをばらばらにするなどという大きな手間をかけているのに、もとの部品をそのまま組み立ててしまうなんて、考えてみればあまりにももったいない。現代の進んだ表面処理技術を古いエンジンにも投入してみたらいいと思うんです。適応範囲の広いWPC&MOS2の技術はもっと多用されてもいいものだ、と私たちは考えています。
そして、近い将来なんとしてもアルミスリーブを実現したいと思います。これは新素材・新表面処理技術(メッキやコーティングも含めて)・新加工技術という上にあげた3つのジャンルの最先端の技術をすべて総合した、真にモダナイズドされた技術になるはずです。あらゆるエンジンに放熱冷却性・軽量化・均一な膨張率という性能上の利点に加えて、耐久性という最も大事な性能をも加える事ができるようになることを目指しています。当社の得意な2スト4ストスリーブ製作技術と合わせれば、たとえば賞味期限が短いといわれる古い絶版バイクのエンジンも、現代のエンジンと同様な優れた性能・耐久性を持って「きれいに回る」エンジンに生まれ変わらせることが夢ではなくなるのではないか、と期待を膨らませています。
うー、絶対に成功させたくなってきました!アルミスリーブ!!(^o^)