
上はH1のINTAKEポートの状況です。
やはりポートの上下が激しく削れてしまっています。
ボーリングしたものの黒い部分は削れ過ぎていて凹んでいるので、
銀色の部分のように刃物があたりません。
この凹みはやはりピストンリングがポートに飛び込んで上下するので、ポートの上下が削れてしまうということだと思います。
一方、下はHONDA系シリンダー(機種は内緒)のEXHAUSTポートの写真です。

ホーニングも終わってクロスハッチがついています。そしてみていただきたいのはH1よりはるかに左右に広がっているEXポートとその中央に立っている柱(ブリッジ)、さらにはその周囲の楕円状にグレーになった部分=柱の逃がし加工の状況です。
EXポートもINポートも大きい方が一度にたくさんの混合気を吸い込みまた吐き出すことができます。このことによって間違いなく2ストエンジンの出力は向上します。
でも、むやみにポートの穴を大きくすれば、リングやピストンスカートがポートに飛び込んでしまう。H1/H2が抱えているものまさにこの問題です。
以前は2ストのポートの大きさは最大でもボア(内径サイズ)の67%以下にしなくてはならない、と言われていました。
リングなどの飛び込みを回避するためです。ところがH1/H2のポートはちょうどこの67%くらいあるんです。そのために写真のような異常磨耗が発生してしまうんですね。一方HONDAのシリンダーの方はそのような問題は起こりません。それは真ん中に柱が立っているためにリングなどの飛び込みが起こらないからです。仮にポートの幅を100%まで広げても真ん中に柱があれば、片方のポートの大きさは柱の幅を差し引くとボアの45%くらいに過ぎません。なので、リングの飛び込みなどの心配はまったくなくなります。
このポートの大きさの限界の問題を解決しようとしたのが、写真に見られるようなHONDAのいわゆる「Tポート」です。
もうひとつのメリットとしてリングなどの飛び込みを考慮すると、それを内径側に押し返すためにポートの形状は楕円型のタレ目にしなくてはなりません。ところが柱があれば飛び込みがそもそも起こらないので、EXポートの上縁をほぼ直線的に設計できるんです。そのためピストンが下がっていくときに排気をいっときにドっと排出できるというメリットもあります。
iBはHONDAさんが当初レースで2ストに乗り出していったときにRS125/RS250などのシリンダーの製作をお手つだいする機会に恵まれました。そして他社ではうまくできなかったこの「柱の逃がし」加工を見事にやってのけたおかげでその後HONDAさんの2スト補用シリンダーの加工を一手にひきうけることができた、という自慢話はいずれまたどこかでじっくり披露させていただきますが、(^^;;;;
とにかくこれはiBが最も得意とする2ストシリンダー加工の中でも最大のヒット技術なんです。
この「柱の逃がし」を正しく行わないとEXポートには熱が集中するので柱部分が熱膨張してすぐに焼きつきを起こしてしまうんです。モトクロスなどの当初はHONDAさんもこの問題で苦労されたようです。
そしてHONDAさんはこのポート形状について特許をもっていましたので、他のメーカーはこれと同じポート形状を使うことができず、2ストの出力面ではつねにHONDAさんがアドバンテージを持っていた、と言えるくらいこれは大事な技術だったんです。パワーのHONDA、ハンドリングのYAMAHAなんて言われましたよね。その原因はここにあったと言ってもいいのかもしれません。
その技術を使うことでH1/H2が抱えている問題を解決することができるのではないか。iBはそう考えました。すでに特許は切れていて、2スト最終期にはSUZUKIもアプリリアも同じようなポートを持っていたようです。
それには柱をたてたスリーブを柱付きの削り出しで製作して、スタンダードのスリーブを削り落として入れ替えればいいのではないか!2ストスリーブ製作もウチの得意技術ではないか!(^o^)
このような技術的な背景があってiBはH1/H2の異常磨耗の問題に真剣に取り組むことになったんです。
長くてすみません。m(_ _)m
続きはまた明日。