2005年04月19日

プラトーの意義

今年になってプラトーホーニング仕上げのご紹介をしたところ、たいへんに好評をいただきまして、
いまでは全てのホーニングの半数くらいがプラトーのご指定をいただくようになってきました。
言い出しっペの僕としては嬉しいかぎりですが、ここでもう一度その意義について考えてみたいと
思いました。

実は今、ピストンリングにコーティングをし、内径をホーニングで鏡面に仕上げることで、
さらに低摺動で耐久性のあるエンジンを作れないか、と実験をしている最中でもあるので、
なおさら今自分達がやろうとしていることの意味をよく考えながら進む必要があると思うんです。

上記の2つの技術はともに、お客様に「いいエンジン」を作っていただきたい、という私どもの願いを形にするものです。
ここでいう「いいエンジン」というのは必ずしも高出力であることばかりを考えていません。
もちろん結果的に出力が向上することもあるとは思いますが、そのために行うわけではないんです。

聞けば、旧いエンジンの中には「おいしい」期間がとても短いものもある、ということですね。
慣らしが終わった時には絶好調になるんだけれども、そのあとわずか数千キロ乗っただけでもう調子は
下り坂になる、などと聞きます。
現代のエンジンに比べるとスリーブの材質やリングの表面処理などに、技術的に大きな差があるのだろうと思います。
それから、通常のボーリングを行う場合のやり方も、最新のメーカーの技術に比べるといささか旧い手法が使われて
いることも大きいと僕らは考えました。数十年前からふつうのボーリング屋の仕上げ方法は変っていないと思います。
それは当時の技術のまま、という意味でレストア的には正しいのかもしれませんが、僕らは
「これでいいのだろうか?!」
と考えました。

そこで第一号の新技術としてご提案したのが、「プラトーホーニング」です。

幸いなことに我々は普通のボーリング屋さんに比べれば、製造部門を持っているおかげで大メーカーさんの
最新の技術に触れる機会を多く持っています。せっかく持っている技術を修理部門でも役立てるべきではないか。
そう思って始めたのが「プラトーホーニング」です。
これはとりたてて新しい技術ではありませんが、通常ボーリング屋(ウチも含めて)はこんなことはいままでやって
いませんでした。工数がかかってコストも増えることをお客様が望むはずはない、という思い込みがあったためです。
コストダウンが至上命令の「製造部」的思考が邪魔をしていたのかもしれません。

一昨年、長く営業していた当社の熊谷工場(修理専門)を閉鎖し、本社川越工場(製造メイン)内に統合した結果が
思わぬ成果を産みました。情報の交換がすすむことで、互いの強み弱みがよくわかるようになったんです。
なんだ、製造部の技術を修理部で使えば、いろいろオモシロイことができるじゃないか、ということですね。
製造部・修理部にはそれぞれ独自の技術がある。そして修理部には一般のお客様との接点があり、いろいろな
お客様から、そのニーズを教えていただくチャンスがある、ということでもあります。
コンロッドの削り出しやプラトーホーニング、その他にもたくさんのワンオフパーツに対応する可能性が一気に
広がりました。

それにしても「ボーリング屋」にとってはシリンダーの内径をいかにいい状態に仕上げるか、真円度、真直度がよく
摺動面はきれいな面粗度でしかもクロスハッチが深く残った理想的なシリンダー内面をつくること、それはまっさきに取り組むべき技術のように思えました。ボーリング・ホーニングをまずは完璧にやってみようじゃないか、ということです。
それが「プラトーホーニング」です。
WPC&モリブデンショットの(有)エヌ・イーさんとの提携によってピストンへも適切な処理ができるようになり、
さらにこの技術の価値を高める事にもなったと思います。

今挑戦しているピストンリングへのコーティングも、さらにエンジンの耐久性を高めることになるのではないか、と
期待しています。わずか数ミクロンの厚さのコーティングですが、メーカーさんのお話ではエンジンやバイクのライフよりはあきらかに長持ちする技術なのだそうです。その間ずっとリングとシリンダーの内面を守ってくれます。
このコーティングとプラトーよりもさらに細かい鏡面仕上げのホーニングを行います。
このような技術を投入することにより、旧いバイクをボーリングした時でも、「おいしい時間」を何倍にも長くすることができる可能性があるのではないかと考えて、今研究を進めているところです。
これが内径技術の第2段になる予定です。

さらに、これも当社にとって新しい技術ではありませんが、ニカジルメッキを旧いバイクに応用することも考えています。実はこれはお客様から当社の掲示板に毎週のようにお問い合わせをいただいていることでもあります。
ただ、これには大きな初期投資が必要で(といっても数十万円程度なのですが)、そのことをご説明するとたいがいの場合コスト面で実現してません。技術的には問題なく可能なのですが、、、、。
誰かがこの機種ごとに必要な初期投資の壁だけを乗り越えることができればいいわけですよね。ある機種に絞って考えれば打ち破れない程の厚い壁ではないような気もします。今やっているいろいろなことが落ち着いた次にはぜひこれも検討していきたい課題だと考えています。

ということで、プラトーの意義はお客様のお役に立てる技術であるのはもちろん、私どもがこれから新しいことにチャレンジしていくひとつのきっかけとして、私どもにとって大きな意義のある技術なのではないかと思っています。
これからも大事に育てて、さらに優れた安定した技術になるよう努力していきたいと思います。



posted by sotaro at 06:57| 埼玉 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今晩は、reo226です。井上ボーリング様の企業理念が読み取れる文章ですね!
技術者の集結は会社にとってプラスです。
たとえば建物が棟ひとつちがっているだけでも
効率、アイデア、経験も共有できません。
以前そのような会社を目にした事ありました。

話は変わりますがニカジルメッキについてですが
私も一度挑戦したいと思っておりましたが、
やはり冶具代等で実現できませんでした。
ニカジルメッキの冶具とはどのような物なでしょうか?
ニカジルメッキはカニゼンメッキの亜種でセラミック
カニゼンと同じなのでしょうか?

あまりメッキの事は詳しくなのですが、冶具sampleがあれば加工できそうな気がしてなりません。

井上ボーリング様で標準サイズを製作してはいかがな物でしょうか?

長持ちする旧式エンジン・・・
パワーでは無く実用本位の機械が重要な気がします。

新車も魅力的ですが、新車を作るより、
すでに出来上がっている物を長く使うほうがより
エコロジーのような気がします。
技術の方向性は違うように思えますが・・・
でも、ブルタコに水素エンジンを積むのも新技術だと
思います。そうなると方向性は新車も旧車も同じかも
知れません。

拙い文章ですみません。

Posted by reo226 at 2005年04月19日 23:45
reo226様、コメントありがとうございます。
社内の意志疎通ってほんとにカンタンではありませんねー。
ミーティングをしたってなかなかほんとに大事なことは出てこないような気がします。

ニカジルメッキはニッケルシリコンカーバイトメッキなんだそうです。カニゼンメッキは無電解化学処理だと思いますが、ニカジルはハードクロームメッキなどと同様電解メッキです。
電解メッキはワークの外側(シャフトなど)ならカンタンに乗りますが、内側(シリンダー内径など)に乗せるには、その内径面に沿った電極が必要になるのがやっかいなところです。
このメッキをH社関連でできるところはこの技術をH社と共同開発した1社しかありません。そこに頼むわけですが、電極の仕様などは公開してくれませんので、こちらで作ってしまう、というわけにもいかないようです。実際素材も銅なので、なかなか高価になるのは止むを得ないようです。
また、一つ電極をつくっていろいろなものに転用する、ということも難しいようです。残念です。

旧いバイクを長く乗る、これがエコ的にどうなのかは難しいところですねー。新しいバイクの方がローエミッションで効率がいい可能性は高いですからねー。
でも、せめてその旧いバイクをきちっと整備してなるべく効率のいいものにして、その上で長く乗る、ということは許されていいようにおもうんですが、、、、。
どうでしょうか。

Posted by IB井上 at 2005年04月20日 09:29
井上社長様
今晩は、私の説明不足でした、新しいバイクのほうが
ローエミッションで効率が良いのは当然だと思います。
私の言いたかった事はトータルエネジーです。素材までさかのぼって考えると既に出来上がってしまった
製品を長く使用する事により
エネジー消費を抑える方法です。
この考えは経済成長を抑えてしまうので
我が社はすぐに倒産ですね・・・
でも、目先を変えただけの新製品よりも細かなアフターパーツの方がトータルエネジーは小さいと思うのですが如何なものでしょう?

話は変わりますが、ニカジルは電解メッキなのですか
なるほどだから電極が必要なのですね
冶具代のコストがかかると言われたのも判りました。

電解メッキの方が剥離し易いような気がしますが
密着度ではカニゼン(セラミックカニゼンも含む)
の方が良いと思います、それにカニゼン硬化処理を
すればハードクロムより硬度は上がります。
摩擦係数もすごく良好なはずです。
摺動抵抗も下がるパワーが上がる?かも

今現在、2ストのKMX200をレストア中ですがシリンダーの内壁が鉄?なのか、すぐ錆びます
シリンダー自体はアルミなのですが、鉄を照射しているように見えます。あまりエンジンには詳しくないので判りませんが、カワサキのバイクはニカジルじゃ無いようです。
不人気の車種で15年以上も年を経たエンジンでも動くとうれしいものです。

とりとめの無いことを書き連ねました事をお詫びいたします。
Posted by reo226 at 2005年04月20日 22:27
reo226様
書き込みありがとうございます。
確かに新しい製品をどんどん消費して行く、というよりは旧いものを大事にしてサステイナブルな社会を作る、というのはいいように思いますねー。

カニゼン硬化処理というのも、勉強してみます。

KMXですか。カワサキは一時期ポーラスメッキというのをしていた、と聞いていますが、それでしょうか。
以前、依頼をいただいてKX250というのは鋳鉄スリーブに変更したことがあります。
http://ibg.seesaa.net/article/174628.html
なんでもお気軽に書き込んでいただけると、ほんとうに嬉しいです。
Posted by IB井上 at 2005年04月21日 22:29
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