2022年07月26日

・膨張率の均一化が産んだ「EVER SLEEVER pat.(エバースリーブ)」8

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まず、エバースリーブ技術を採用して完成したICBMシリンダーはいままでのICBMシリンダーとなんら変わりがないとお考えください。

ただその製法にちょっとした変更点があります。

それは何かと言うと、先にホーニングまで完成したアルミメッキスリーブをシリンダーブロックに常温挿入してその後面研磨などを実施して仕上げたものというこの一点です。
単に工程の順番が変わっただけ、のようですが、通常鋳鉄でもアルミでも内径仕上げまで完成してからスリーブをシリンダーブロックに焼き嵌めすることはありません。なぜかと言うと焼き嵌めでスリーブを入れた後、熱収縮する際にスリーブが変形してしまうから、です。
そのため内径の仕上げは、必ずスリーブの圧入後にやらなければ精度の高いシリンダーを作ることはできなかったんです。

スリーブが鋳鉄でできていて、シリンダーブロックがアルミでできている場合にはスリーブの圧入は焼き嵌めでやるより方法がありません。
(2ストなど、一部の鋳込みスリーブは除きます。)

iBではアルミメッキスリーブICBMの開発に成功した後も、確実なスリーブ挿入法として引き続き焼き嵌めを実施してきました。

ところが!
多くのICBMを取り扱ううちに、スリーブを外さなくてはならない機会もあり、そのときにスリーブもアルミでシリンダーブロックもアルミの「アルミ同士」の場合には、圧入代がほんのわずかであってもアルミ同士が結合してしまって抜くに抜けないという事態に多く遭遇したのです。

そして、このことがある発見に結びつきました!
「アルミスリーブは挿入時の嵌合がなんとゼロでもシリンダーブロック内で遊ぶことがない!」
という驚くべき事実です。

なぜか。
それはエンジン(=内燃機関)の熱はシリンダーの内部で発生していて、一方シリンダーブロックの方は空冷にしろ水冷にしろなんらかの方法で冷やされるもの、だからです。膨張率に差がないアルミ同士の場合、熱にさらされるスリーブは膨張し、シリンダーブロックは冷やされていて膨張しない。
だからなんと嵌合代はゼロでもあるいはプラス(わずかな隙間嵌め)でも、稼働するエンジンの中ではスリーブはブロックにしっかりと抱きついて一体化しているのです。

考えてみれば、当然のことでもあります。

しかし、長年内燃機屋として鋳鉄スリーブ入替を実施してきた中では全く思い至らないことでしたし、バイクメーカーさんの仕事としてアルミシリンダーに直にメッキをするシリンダー製法を実施している間もまったく知る必要がない知見ではありました。

アルミメッキスリーブICBMを数多く手がけて初めて気づくことができた発見でした。
これもシリンダーブロックとスリーブがすべてアルミであって膨張率が均一化されたことの一大メリットだったのです。

そして、この発見が「エバースリーブ」の開発へとつながりました。

嵌合代がゼロにできるとどんなことが可能になるのか。
それは、常温でスリーブの挿入ができ、しかも挿入後の熱収縮がないのでスリーブの変形が起こらないのです!

ということは、今までの常識に反して、ホーニングまで完全に精密に仕上げたあとのスリーブをその後にブロックに挿入しても、なんら問題がないことになります。
内燃機加工の常識としては、ディーゼルのスリーブでもガソリン車でもオートバイのエンジンでも、いままでにやったことがない画期的な加工方法であり、「ホーニングまで完成したスリーブをそのまま挿入して終わり!」なんてほんとうにあり得ない加工方法なんです。

そして緩い嵌め合いのスリーブをエンジン組み立て完了までの間、軽くブロックに固定しておくためにストッパーリングを開発し、この工法によって特許を取得することができました。

これは鋳鉄スリーブとアルミブロックではできないことです。
鋳鉄とアルミでは膨張率が倍ほども違うので、先の投稿でもご紹介した通り、稼働するエンジンの中では常識的な嵌合代があっても、スリーブはブロックのなかで遊んでいるということになってしまうのが現実です。まして嵌め合いゼロなんてあり得ません。

アルミスリーブならこういう問題が絶対に起こらないばかりでなく、さらに「エバースリーブ」として完成品スリーブの販売も可能になるのではないか。

iBとしてはこの可能性に賭けてみることにしました。

様々なテストをし、嵌合代を調整しながら「エバースリーブ」の製作に挑戦しました。
その結果、技術的にはまったく問題なく「エバースリーブ」を製作することができました。
「エバースリーブ」が完成すれば、iB以外の日本全国の内燃機屋さんやそれ以外にもシリンダーバレルのスリーブ穴拡大ができる機械加工屋さんであれば、どこでもアルミメッキシリンダーの完成品を創り上げることができるようになり、今より多くのかたにアルミメッキスリーブの恩恵をお届けできるようになります。

できる限り多くの方に、いい状態のエンジンで愉しんでいただきたい。
それがiBの目指すことです。

「エンジンで世界を笑顔に!」 (株)井上ボーリング
posted by sotaro at 14:39| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | エバースリーブ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月19日

EVER SLEEVE(R)pat.について 7

・膨張率の均一化

比較的地味なトピックと思われがちなこの膨張率の均一化という問題ですが、これが実に多くのエンジンの課題を解決してくれる重要な問題なんです。iB自身もこのことの本当の意味に気づいたのはすでにICBM(R) の生産・納入がかなり進んだ後のことでした。
シリンダーバレル本体とスリーブが両方ともアルミになり、オールアルミのシリンダーであるということは想像される以上にエンジンというものにとって重要なことだったんです。

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まず第一に解決された課題はZ1/Z2などの元々の鋳鉄スリーブの場合に発生するシリンダーバレルとスリーブの間に永年の使用で隙間ができてしまう、という問題です。
これはすでによく知られた問題点で、ボーリングのためにお送りいただいたシリンダーがiBに到着するまでに緩んでしまって抜けているというようなことは頻繁にあります。また抜けていない物でもちょっとプラスティックハンマーで叩くと抜けてしまいます。このようなものをそのままボーリングやホーニングをすると加工の際の力でスリーブが回ってしまって危険なため、加工することができません。
なんとか加工ができても、エンジンが稼働して熱がかかるとシリンダーバレルと鋳鉄スリーブの間に隙間ができてしまい、熱伝導が阻害されさらに隙間が大きくなってしまいます。こうなるとスリーブは中空に浮いている状態で上部のツバの部分だけで支えられる状態になりますから、熱伝導ができず、スリーブが振動して異常摩耗が発生することにもなります。
これはすべてアルミと鋳鉄では膨張率が約倍と大きな差があることが原因ですから、スリーブをアルミにしてしまえばまったく発生するはずがないトラブルです。
重くて摩耗する鋳鉄スリーブを選ばなくてはならない理由がなにか他にあるのなら別ですが、アルミメッキスリーブが入手できる現代において鋳鉄スリーブを選ぶ理由はコストの僅かな差以外にはないのですから、エンジンの再重要部位・心臓部であるシリンダースリーブには多少のコストをかけてもアルミメッキスリーブを採用していただきたいものです。

第二点としてはピストンとも膨張率の差がなくなることで、クリアランス変化が少ないエンジンになるということです。エンジンは始動前は冷えていて、始動して熱がかかると各部品が熱膨張します。ところが中心部のピストンが膨張率の大きいアルミで、外側を囲むスリーブが膨張率の小さい鋳鉄というのは考えてみれば最悪です。中でピストンが大きく膨張して、外側のスリーブはその半分しか膨張しない、だから大きくクリアランスをとっておかないと焼き付いてしまうわけです。一方クリアランスを大きくとれば、エンジンが温まらないうちはクリアランスが大きすぎて調子が悪い、ということにもなります。
ところがピストンがスリーブも含めてオールアルミのシリンダーの中にあるのなら、大まかにはピストンが膨張したのと同じだけシリンダーの方も膨張するのですから、焼きつきの恐れは大幅に減少しますし、エンジンが冷えていてもクリアランスはほぼ一定に保たれているわけですから、いわゆるオーバークールという現象もすくなくともこの部分に関しては発生しない、ということになります。
レースなどでは当初のクリアランス設定を限界まで小さく詰めることも可能になりますので、圧縮を逃さずその分のパワーアップも見込めるということになります。

第三点として、一部の鋳鉄ウェットライナーを採用している機種においては、エンジンが熱くなると鋳鉄スリーブを支えているアルミシリンダーバレルが膨張してしまうので、そこから冷却水漏れを起こすということがあります。画像のGPZ900Rや4輪車ですがHONDA S800などがこの例になります。S800などではこれがエンジンの欠点として広く認識されているそうです。ここから水漏れが起こると止めようがないんですね。エンジンを全部分解してスリーブを抜いて対策をするのですが、それも鋳鉄スリーブではまた同じことの繰り返しになってしまいます。
アルミメッキスリーブなら、もちろんこの問題も起きません。それだけでなくウェットライナーは鋳鉄のスリーブ外径が冷却水に浸かっているのでここが錆びてしまい、この錆がいずれはラジエターやウォーターポンプなどあらゆる部分に回って悪さをすることになります。アルミメッキスリーブなら、この問題もいっさい起こるはずがなく完全にクリアーできます。

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さらに重要な発見がありました。これが第四の重大なメリットであり発見であって、この発見によってEVER SLEEVE(R) pat.(エバースリーブ)は特許をとることができました。
この点については長くなりますので、項をあらためて解説したいと思います。
posted by sotaro at 10:04| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | エバースリーブ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月02日

EVER SLEEVE(R)pat.について 6

・ 優れた放熱性

放熱性についてのお話となれば、まずは各金属の熱伝導率を見てみましょう。


    物質               熱伝導率[W/(m・K)]
球状黒鉛鋳鉄(C:3.46、Si:2.72、パーライト地)    20.1
アルミニウム6061-T6              170

蓄熱することで知られているステンレスSUS304が16.0です。
熱を通さないので、魔法瓶などにも使われますよね。鋳鉄の数値はそれに近いものです。
このように鋳鉄は金属の中でもかなり熱伝導が良くないことがわかります。

一方、アルミよりも熱伝導が良い金属というと、銅398、銀427、金315くらいしか見当たりません。
アルミは金属の中でもそうとう熱伝導に優れた部類です。
実際に電子部品などの放熱用のフィンなどもアルミで作られているものが多くみられます。

ちなみに
アルミニウム砂型鋳物材AC4C(Si:7、Mg:0.3) 151
鋳造のアルミよりもA6061の方がさらに熱伝導に優れていることもわかります。


熱伝導率の低い金属は、摩擦熱によって、焼付き、かじり等を起こしやすくなります。

シリンダーヘッドに次いで、エンジン内部の熱を強く受け止めるシリンダースリーブの放熱性が高いことは
エンジンがその熱を外に逃すにあたってたいへん重要であることは言うまでもありません。
燃焼室内の爆発による熱、特にピストンが受け止めた熱はピストンヘッドからピストンリングを経て接触するシリンダースリーブに伝わって、
そこから外へと伝わるのですから。

そこに熱伝導の悪い鋳鉄の壁を設けてしまうことはピストンの冷却を大きく阻害することになります。にも関わらずシリンダー内径に熱伝導のよくない鋳鉄スリーブを採用する必要性はどこにあったのでしょうか。

確かに20世紀にはまだアルミ表面に密着して剥離を起こさず、硬度が高く耐摩耗性の高いメッキの技術がなかったのでそれは止むを得ないことでした。でも、21世紀の今は違います。何も放熱が悪く重くて摩耗する鋳鉄をエンジンの内部に持ち込む理由などないのです。
実際、現在新車で生産されているスポーツバイクは各社全てアルミメッキシリンダーになっています。
鋳鉄スリーブを採用すると言うのはせっかく放熱性のいいアルミシリンダーの中に分厚い魔法瓶を仕込んでしまうようなものではないでしょうか。

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写真は一昨年製作したHONDA 1300(四輪車)のエンジンです。
鋳鉄スリーブを削り取って、アルミメッキスリーブ化しました。

このエンジンの開発時、本田宗一郎さんは「水冷よりも空冷の方が理に適っている」という信念のもと、1300ccの乗用車の開発に腐心されました。ただ、発表されたクルマの市場での評価はあまり芳しいものではなかったようです。

エンジン冷却のために複雑な2重のフィン構造と鋳鉄スリーブを持ったエンジンは重く、そこまでしても安定した冷却はできなかったと言うことです。

#もし、今iBが持っているEVER SLEEVE(R)pat.の技術をタイムマシンに乗って宗一郎さんに提供することができたら!

雷鳴のような轟音がとどろき、視界が開けると
タイムマシンから降り立った男が叫ぶんです。
「宗一郎さん、僕たちの夢を叶えるスリーブができました!!」

軽くて放熱性に優れ摩耗が圧倒的に少ないEVER SLEEVE(R)pat.は大いに宗一郎さんのお役に立てたのではないか、と思うとなんだかワクワクするような気持ちを止めることができません。もちろん、これは叶わない夢ですけれどもね。

でも、あなたのエンジンにEVER SLEEVE(R)pat.をお届けすることは現実にできるんですよ。(^o^)
posted by sotaro at 10:51| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | エバースリーブ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする