2022年06月27日

EVER SLEEVE(R)pat.について 5


・焼きつきにくい

これも低フリクションにも関連はしますが、対焼き付き性はそれだけでシリンダーの一つの性能指標になり得ます。
ICBMR /EVER SLEEVERpat.に使用されているニッケルベースのメッキはピストンとの対焼き付き性能にもたいへん優れています。

写真はLOCのレース予選において点火タイミングのミスによってピストンが過熱し、見事にピストントップに大孔があいてしまった状態です。この時シリンダーの内径壁面にはわずかに熱で溶けたピストンのアルミが残りましたが、ごく僅かでペーパーで擦り落として復活し、ピストンとリングの交換で決勝は問題なく走り切ることができました。
もしこれが鋳鉄スリーブでしたら、完全にピストンとシリンダーが焼き付いてしまって、とても決勝を走ることなどできなかったでしょう。また、シリンダーはその後も最低限のホーニングをして継続使用することができました。

iBには毎月数多くのNSRシリンダーが再メッキ加工のために送られてきます。焼き付かせたので再メッキをというご依頼が多いのですが、これも実はホーニングだけをしてこびりついた溶けたピストンを落とすと、下から無傷のメッキ面が現れて再メッキをする必要がないケースも多くあります。(HONDA純正のNSRのメッキとICBMR /EVER SLEEVERpat.に使用されているメッキは同種のものです。)それほどメッキは硬度が高く、焼きつきにくいのです。


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2022年06月21日

EVER SLEEVE(R)pat.について 4

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・低フリクション(リングの摩耗も減少)

こちらについては過去の実験結果をリンク先のblogでご紹介していますので、ぜひご覧いただければと思います。

http://ibg.seesaa.net/article/470059666.html


この実験自体はICBMR の摩耗が純正鋳鉄スリーブに比較して圧倒的に少ないことに重きをおいたリポートになっていますが、そこに使われている写真をみていたいだくと、低フリクションについても参考になると思います。

純正鋳鉄スリーブと摺動したピストンのスカート部にはあきらかな縦傷がはいっていてみるからにザラザラしています。一方、ICBM(R) アルミメッキスリーブと摺動したほうは画像でもきれいなのはわかると思いますが、指で触ってみるとすべすべツルツルしているんです。機会はなかなかないと思いますが、できれば一度触ってみてもらえればその違いはあきらかで、ほんとうに実感できると思います。

この違いはピストンのスカート部だけにでるわけではなく、一番大きいのはピストンリングの摩耗状態に大きな差があることです。
一般にふたつの物体が摺動する場合、片方の硬度があがればそちらの摩耗は減少する一方で、摺動する相手側は摩耗量が増加したり、ダメージを受けたりするのではないか、と想像されるのは無理のないことです。メッキの硬度をおつたえするとそのようにご心配になるかたもおられます。

ところが、実際このメッキの場合に起こる事態はそれとはまったく逆で相手のピストンリング(ハードクロームメッキリングが大半)の摩耗も著しく減少するんです。

これはひとつにはメッキ後のプラトーホーニングが大きな役割を果たしていることが考えられます。オイル溜まりになる谷が深く実際にリングと摺動する面が滑らかに仕上げられていることの効果です。
ただ、それだけでは原因として十分ではありません。あとの大きな理由はこのニッケルシリコンカーバイドメッキがリングに使われるハードクロームメッキとの相性を徹底的に研究して開発されたものであるということに尽きると思います。

もともとはドイツのマーレー社が開発したもので、登録商標名が「ニカジル」です。ですのでiBのものを含めマーレー社以外のメッキを「ニカジル」と呼ぶのは正しくありません。それ以外の各社のメッキはそれをさらに研究開発して進化したメッキになっています。内燃機関の内径への適用のみを目的として開発されたもので、熱と圧力を受け、一方潤滑油のなかでの過酷な摺動という極めて特殊な摺動条件に適合した圧倒的な性能をもったメッキです。

iBも過去にはこのメッキ以外のあらゆるメッキでの開発に挑戦しましたが、8年の歳月を費やしても十分な性能を持つものはみつからず、結局高価なこのニッケルシリコンカーバイドメッキを採用するに至りました。その後4年ほどを費やしてメッキ治具への投資をすすめ、あらゆるエンジン内径に対応できる体制をつくって発表したのが2016年のことになります。

以来現在ではICBM(R)(アルミメッキ化スリーブ)は600を超える納品実績を誇り、「永久無償修理」制度も実施してお客様の信頼を獲得しています。

そして、そのICBM(R)に使われるアルミメッキスリーブを完成品として単体販売を実現したのが、今回のEVER SLEEVE(R)pat.の特許ということになります。
このことについては一連のメッキスリーブのメリットの解説を終えた後に詳しくお伝えしたいと考えています。
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2022年06月17日

EVER SLEEVE(R)pat.について 3


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・軽さについて

アルミニウムの比重は2.7。鉄(7.8)と比較すると約3分の1の軽さです。
この軽さという点については特に難しく解説する必要はないかもしれませんね。

例えば4気筒のエンジンの場合ですと、(内径の設定次第ですが)スリーブ4本で2kg以上の軽量化になります。

レースなどではオートバイの車重の軽量化のためには涙ぐましい努力が行われますよね。さまざまなパーツに穴を開けることで軽量化するというような手法まで取られます。多くの場合、軽量化は剛性の低下などの限界を見極めながらデメリットが出ないように注意深く行う必要があります。軽量化と剛性低下のどちらを取るかという二律背反の限界に挑むことになります。

ところが、お気づきのようにアルミメッキスリーブ化の場合には、そのことによって大幅な軽量化が達成されるばかりでなく、それ以外にも影響はメリットばかりです。

・圧倒的な耐摩耗性(ヴィッカース硬度=Hv2000!)
・低フリクション(リングの摩耗も減少)
・焼きつきにくい
・優れた放熱性
・膨張率の均一化
・そして錆びない!

このような数多くのメリットと同時に「軽量化」という大きなメリットもまた手にすることができるわけです。

このようにメリットしかないアルミスリーブ化をせずに、どうして重くて摩耗する鋳鉄スリーブを使い続ける必要があるのでしょうか。
コストという問題はありますが、iBの加工費定価で計算すればその差はシリンダーオーバーホール内燃機加工工賃合計の20%程度にすぎません。(鋳鉄スリーブ製作入れ替え209,000円対ICBM(R)264,000円)

これは部品単体での価格差ですから、エンジンの分解組み立て調整に必要な工賃(あるいはご自身の手間)を含めて考えれば、両者の差はさらに小さなものになります。

さらに後々ご説明しますが、エバースリーブ(EVER SLEEVE(R)pat.)をご利用いただき、iB以外の内燃機屋さんをご利用になることでさらに価格差を縮めることができる可能性すらあり得ます。また、完成品スリーブの支給によって納期短縮も可能になるでしょう。

オートバイにとって「軽量」というメリットはほんとうに計り知れないものがあります。同じ出力のエンジンであっても、またブレーキ性能が同じであってもその効果には大きな差が出ることになりますし、さらにコーナリングにおいてもメリットがあります。

特にエンジン上部のシリンダーの位置において、2kgもの軽量化が他のメリットと同時享受できるということの意味はかなり大きなものがあると思います。その結果としての低重心化はコーナーの連続での切り返し時などに実感できるであろうことは容易にご想像いただけることと思います。

ブースでの展示でも、鋳鉄スリーブ単体とエバースリーブ単体を手にとったお客様にはいつもびっくりされています。1/3の軽さというのはほんとうに想像以上ですからね。
ぜひ、サーキットなどでiBブースを見かけたら、お手にとってみてください。
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2022年06月09日

EVER SLEEVE(R)pat.について 2

エバースリーブはiBの得意技術アルミメッキスリーブICBM(R)が持つ7大メリットを全て受け継いでいます。
・圧倒的な耐摩耗性(ヴィッカース硬度=Hv2000!)
・軽量 (鋳鉄の1/3)
・低フリクション(リングの摩耗も減少)
・焼きつきにくい
・優れた放熱性
・膨張率の均一化
・そして錆びない!

今回のblog連載ではそれぞれの特徴の内容を詳しくご紹介していこうと思います。
まずは鋳鉄スリーブに比較した場合の
・圧倒的な耐摩耗性
についてです。
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iBがアルミメッキスリーブの開発にトライしたいと思った最大の理由がこの耐摩耗性です。つまり高耐久な「減らない」スリーブ(シリンダー)を作りたい!
という願いがその発端なんです。

iBには当時もKAWASAKI H1/H2などのモデルのボーリング依頼も多数寄せられていました。旧車のエンジンのなかでもこのようなモデルではせっかく我々が神経を使ってお客様のご指示に寸分違わずたとえば0.067mmというようなご指定に沿って、高度な技術を要するプラトーホーニングで仕上げても、これがすぐに減ってしまうことがわかっているわけです。
これは素材の鋳鉄がよくないことに加えてパワーを追求したために大きすぎるポートをもつこれらのモデルでは、ピストンやリングがポートに飛び込むために、そのポートの上下が激しく削られてしまうことが原因です。
せっかく仕上げたシリンダーが慣らし運転を終わる頃には(一説には一度でも高回転まわしてしまうと)すぐにリング音・スラップ音が出てしまうということです。
これでは、正確にクリアランスを仕上げる意味さえわからなくなってしまいます。

90年代当時すでにiBはH社さんのシリンダーの全加工をお手伝いしていました。鋳鉄スリーブもありましたが、どんどんメッキシリンダーの比率が高まっていました。そのメッキはたいへんに固くホーニングするにも通常の砥石では歯がたたず、ダイアモンドの砥石を使う必要があります。常日頃から取り扱っているメッキシリンダーと同じ内径仕上げの技術を、我々が内燃機加工させていただくボーリング依頼のシリンダーにも適応する方法はないんだろうか。

「メッキができれば、減らないシリンダーは作れるじゃないか!」
我々がそのように思い至るのは極く自然なことだったと言えるでしょう。

ただ、実際に旧い鋳鉄スリーブシリンダーをオールアルミのメッキシリンダーに作り替えるのに必要なのは、実は生易しい技術ではありませんでした。ここでその開発の経緯をすべてお話しするのはこの項の目的ではありませんので割愛しますが、ICBM(R)として開発に成功し、ラインナップが完成するまでには、開発開始から12年の歳月が必要でした。

そして、できあがったICBM(R) アルミメッキスリーブ化は結果として現代生産されているスポーツバイクと同様の性能を備えています。

硬度でいいますと、鋳鉄スリーブがヴィッカース硬度(Hv)80~140程度なのに対して、ICBM(R)はメッキ地の部分でHv450と3倍の硬度をもち、さらにそこにHv2,000以上を誇るシリコンの粒子が含まれて摩耗の最前線を担っています。
鋳鉄とは桁違いの硬度、すなわち耐摩耗性能をもっているんです。

よくターカロイ鋳鉄の美点として黒鉛を含有していて自己潤滑性があるので、単純な硬度の比較は意味をもたないなどとして無理に鋳鉄のよさを強調する論調がありますが、このお話が通用したのはターカロイ鋳鉄が開発された昭和40年代のことでしょう。確かにターカロイは他の鋳鉄に比べるとこの点でたいへんに優れた技術ではありましたが、それは硬度をあげることのできない鋳鉄同士で比較した場合の微妙な優劣のお話にすぎません。上の硬度の比較で分かる通り、鋳鉄とICBM(R)のメッキではまったく比較の対象にならないくらい耐久性に圧倒的な差があります。
(第一ターカロイの優秀性を訴えて日本の内燃機屋でまっさきにターカロイ鋳鉄スリーブ製作をはじめたのは僕たちiBなのですから、鋳鉄との優劣について一番知っているのも僕達なんです。)

そうそう、この硬さの差を実感で説明しますと、機械加工をされたことがある方ならすぐにわかりますが、鋳鉄というのはとても削り易い金属です。
超硬のバイトでなくハイスでもサクサクと削れます。
ところがICBMメッキ後の表面は超硬でもコーティングでも歯が立たず、ダイアモンドチップを使わないと削れません。そのダイアモンドのチップもどんどん減っていきます。
なのでホーニングの研磨しろも極力小さくしないと、加工が大変なくらいなんです。ほんとに硬い。

実際6万キロ走行したメッキシリンダーの内径を測定しても有意な摩耗を見出すことはできませんでした。μ(0.001mm)代の摩耗があるのか、測定誤差なのかわからないという程度です。なので、いったい何十万キロもつのかはまだそこまで走った例がないので、わかりません。

とにかく現代に生産されるスポーツバイクはどこのメーカーのものもみんなメッキシリンダーになっています。それはメッキシリンダーが優れていて、重くて錆びて摩耗する鋳鉄スリーブなどこの21世紀に採用する理由がまったくないからです。

ただ、現代ではアルミメッキシリンダーの採用はもう当たり前のことなので、いちいちメーカーも新機種発表のたびに「アルミシリンダーを採用!」なんて自慢もしません。そのためにいまその価値があまり顧みられないのが、とても残念です。

 かくして、我々が夢見た「減らないシリンダー」を作る技術はとうとう現実のものになりました。

それが【ICBM(R)】であり、【EVER SLEEVE(R)pat.】です。

あとはこのメッキ内径の素晴らしさを知っていただいて、
「旧いバイクなんだから、エンジンは昔のままでいいや。」
などと言わず、最新のエンジンにも負けない内径を持った最高のシリンダーを作ることができるのですから、旧いオートバイ・エンジンを未来に残していけるように、どうかアルミメッキスリーブをご採用いただけないでしょうか。

多くのかたにアルミメッキスリーブの良さをご理解いただいて採用していただくこと。それこそが我々iBの次の夢、というわけなんです。
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2022年06月06日

EVER SLEEVE(R)pat.について 1

iBがこれからの製品としてたいへんに期待をしているのが表題のEVER SLEEVE(R)pat.(エバースリーブ)です。

昨年特許も取得してこれから販売に力を入れていこうと考えていますが、いまのところはまだ多くの方に製品をご理解いただけていないようです。
いままで市場に存在していないまったく新しい製品なので、販売が軌道に乗るまでに時間がかかることは覚悟しています。
ICBM (R)ですら売れ始めるまでに4~6年ほどかかっていますからね。

それでも、少しでもお客様のご理解が得られるようあらゆる機会を捉えてPRをしていこうと思っています。

そこで、このblogでもこの製品の企画意図、性能、特許の意義などについてご説明をしてみようと思います。


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画像はなんとエバースリーブを海岸の潮溜まりの海水に浸けてしまって撮影したものです!
考えられないですよね、金属製の精密機械部品を海水に浸けるなんて。

でも、全く問題がないんです。鋳鉄スリーブだったら、本当にあっという間に真っ赤に錆び付いてしまうところでしょうけれども、アルミの母材にニッケルシリコンカーバイドメッキを施した「エバースリーブ」なら錆の心配は全くありません。

「錆びない」ということはエンジン部品の特性としてはそこまで重要視されないとお考えの方もいると思います。エンジンオイルによって適正に潤滑されている状態では殊に問題とはならないというのも事実です。

ところが、私たちが愛するヴィンテージなオートバイに関しては果たしてそうでしょうか。

例えば、一番の売れ筋であるZ1/Z2などの4気筒エンジンのオートバイを考えてみましょう。このような貴重なバイクは毎日足代わりに使われるというようなことはあまりありません。

それどころか、春のツーリングで乗って、秋のミーティングの時に一度乗って、今年は2回乗っただけだったな。そんなケースも多いのではないでしょうか。
4気筒のエンジンが停止している時、バルブが全て閉じているということはまずありません。エンジンが停止したタイミングでいくつかの気筒ではバルブが開いた状態で止まっていることでしょう。そこには外気が侵入する可能性が高いですね。

保存環境にもよりますが、外気の侵入した気筒のシリンダー内壁は間違いなく錆びていると思ってください。油膜の途切れた鋳鉄表面はあっという間に酸化します。つまり錆びてしまうんです。

そうすると、次のエンジン始動時にはエンジンの中を硬い錆でかき回しているような状態になります。エンジンのことを考えて毎月一度はエンジンを始動しているという方もいらっしゃると思いますが、その程度では全然追いつきません。わざわざエンジンを減らしているようなものだと思います。

ところがアルミメッキスリーブであるエバースリーブならそんなことは全く顧みる必要もありません。錆の心配は皆無なんです。
これだけをとってもエバースリーブには鋳鉄スリーブとは比べ物にならないメリットがあると思います。

今回は初回として、意外にも一番アピールしやすいエバースリーブの「錆びない」というわかりやすいポイントをご紹介してみました。

エバースリーブはiBの得意技術アルミメッキスリーブICBM(R)が持つ7大メリットを全て受け継いでいます。
・圧倒的な耐摩耗性(ヴィッカース硬度=Hv2000!)
・軽量 (鋳鉄の1/3)
・低フリクション(リングの摩耗も減少)
・焼きつきにくい
・優れた放熱性
・膨張率の均一化
・そして錆びない!

これからこのエバースリーブの長所について、ひとつ一つご紹介していきたいと思います。
また、さらに内径を完成した状態で販売できるように取得した特許の意義についてもご説明していきます。

どうぞ、おつきあいのほど、よろしくお願い申し上げます。

補足
【ICBM(R)】はアルミシリンダーを作る技術全体の呼称
【EVER SLEEVE(R)pat.】は内径完成状態で販売されるアルミメッキスリーブ単体の呼称です。


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